ベトナム労働法の解説

A.佐川法律事務所では,ベトナムに進出している日本企業及びベトナム進出を検討している日本企業に対する法的支援等のサービスを提供していますが,その中で最も案件として多いのがベトナムの「労働法(Bộ luật lao động)」に関する相談になります。

2021ベトナムの新労働法①

ベトナムの新労働法が2019年11月20日に成立し,2021年1月1日から施行されています。改正点は多岐にわたりますが,本稿では,新労働法に基づく労働契約の形式・類型及び試用について解説します。

1 労働契約の形式・類型

旧労働法上,ベトナムでは,契約期間3ヶ月未満の短期業務を除いて,“書面(紙)”による労働契約の締結が義務づけられていますが(旧労働法16条1項),新労働法では,これに加えて,電子メールなど電子的なやり取りによる労働契約の締結を認めています。なお,口頭での労働契約の締結が認められていない点は,変更はありません。

ベトナムにおける労働契約は,旧労働法では次の3類型が認められています(旧労働法22条1項)。これに対し,新労働法では,③を廃止し,②について最短期間を廃止しています。この結果,新労働法下では,①期限の定めがない労働契約(いわゆる正社員)と,②36ヶ月以下の期間の定めがある労働契約(いわゆる契約社員)の2類型となり,業種を問わず,12ヶ月未満の期間の定めがある労働契約が締結できるようになります。

  1. 期限の定めがない労働契約
  2. 期限の定めがある労働契約(12ヶ月以上36ヶ月以下)
  3. 期限の定めがある労働契約(12ヶ月未満)

2 試用

旧労働法では,試用に関する契約と労働契約は別個の契約という建前をとっており,試用の結果が「当事者で合意した条件」に達した場合には,使用者は,試用期間満了後,その労働者と,新たに労働契約を締結する義務を負うとされています(労働法29条)。

これに対し,新労働法では,使用者と労働者の間で試用に関して合意が成立した場合,労働契約書の中で「試用」に関する規定を設けるという,日本に似た制度も選択できるようになりました(従前どおり試用契約を別個に締結することもできます。)。

その上で,使用者は,試用期間満了にあたり,労働者に対し,試用期間の結果を通知しなければなりません。使用者は,試用の結果が「当事者で合意した条件」に達したと判断する場合に,(試用が盛り込まれた)労働契約を継続しなければならず,別に試用契約を締結していた場合には,新たに労働契約を締結しなければなりません。

他方で,使用者は,試用の結果が「当事者で合意した条件」に達しないと判断した場合には,締結済みの労働契約又は試用契約を解除することができます。

また,試用期間について,旧労働法上の下記3類型に加え,新労働法は,新たに「管理職」として「180日」という長期の試用を認める類型を設けています。

  1. 短大以上の技術又は専門レベルが必要な職種の業務 60日以内
  2. 職業学校,専門学校,技術工員,専門スタッフの技術専門レベルが必要な職種の業務 30日以内
  3. その他の業務 6営業日以内

2021ベトナム労働法②

ベトナムの新労働法が2019年11月20日に成立し,2021年1月1日から施行されています。本稿では,その新労働法における「普通解雇」について解説します。

1 旧労働法が規定する「普通解雇」事由

使用者による労働契約の一方的解除,日本で言う「普通解雇」について,旧労働法は,次の事由を限定列挙しています(旧労働法38条1項)。

  • a) 労働者が労働契約に基づく業務の未完了を繰り返す場合
  • b) 労働者が傷病により一定期間(例えば期間の定めがない労働者は連続12ヶ月間)療養するも復職しなかった場合
  • c) 天災などの不可抗力によりやむを得ず生産・施設の縮小せざるを得ない場合
  • d) 労働者が,兵役,勾留又は産休など旧労働法32条に定める労働契約一時停止期間が終了して15日を経過するも,復職しなかった場合

2 新労働法において加えられた「普通解雇」事由

以上に加え,新労働法は,下記事項を「普通解雇」事由に加えています(新労働法36条)。

①労働者が正当な理由なく5日連続で欠勤した場合

②労働者が誠実情報提供義務に違反しそれが採用に影響している場合

③定年退職年齢に達した場合

3 ①労働者が正当な理由なく5日連続で欠勤した場合について

旧労働法は,「労働者が,正当な理由なく,1カ月のうちに合計5日又は1年のうちに合計20日を無断欠勤した場合」を,懲戒解雇事由としています(旧労働法126条3項1段)。

新労働法は,これを懲戒解雇事由に残しつつ(新労働法125条4項),新たに「5日連続での欠勤の場合」について,懲戒委員会の開催等が不要で手続きが簡易な「普通解雇」事由としています(新労働法36条)

4 ②労働者が誠実情報提供義務に違反しそれが採用に影響している場合について

労働者は,労働契約締結にあたり,氏名,生年月日,性別,居住地,学業水準,職業能力水準及び健康状態その他労働契約に直接関係する情報を誠実に提供する義務を負っています(旧労働法19条2項,新労働法16条2項)。

労働者がこれに違反し,採用時に虚偽の情報を提供していた場合には,旧労働法では普通解雇できず,懲戒処分ができるに過ぎませんでしたが(懲戒解雇事由には該当しない。),新労働法は,これを「普通解雇」事由としています。

5 ③定年退職年齢に達した場合ついて

定年退職年齢(旧労働法187条,新労働法169条)に達した場合に,旧労働法は労働契約の終了事由としていますが(旧労働法36条4項),新労働法はこれを使用者による判断が可能な「普通解雇」事由としています。

5 a) 「業務の未完了を繰り返す」について

新労働法は,一般的な普通解雇の理由として多いであろう,a) 「業務の未完了を繰り返す」について,その評価基準を定めるように義務付けています。もっとも,この点については,旧労働法下でも,政令(05/2015/NĐ-CP)12条1項にて,会社の規則(就業規則に限りません。)にて,「業務の完了」といえるレベルの評価基準を具体的に定めることが義務付けられており,この点については実質的な変更はないと思われます。

新しくなったベトナムでの「労働許可証」制度

ベトナムで外国人が労働する場合に必要となる「労働許可証」に関して規定した新しい政令(152/2020/NĐ-CP)が2021年2月15日から施行されています。

労働許可証の取得が不要な場合

労働許可書が不要な外国人労働者については,まず新労働法154条が規定しています。例えば,ベトナムでの弁護士業許可証の発給を得た外国人弁護士(同条6項)や,ベトナム人と結婚してベトナムで生活する外国人(同条8項)などです。

他方,同条1項及び2項は「政令が規定する資本金額を有する」有限会社の所有者や株式会社の取締役などについて,労働許可証の取得を免除しています。新政令はこの資本金額を「30億ドン(約1410万円)」と規定しています。この場合,労働許可証取得免除の証明申請(政令8条1項)も不要で,ベトナムで勤務する遅くとも3日前までに当局に通知すれば足りるとされています(同条2項)。

「専門家」としての労働許可証取得条件

いわゆる「専門家」については,新政令3条3項が規定する労働許可証取得の条件は,以下の a), b), c) のいずれかです。

  • a) 大学卒業証明書或いは同等の学位を持ち,3年以上の実務経験を有する場合
  • b) 5年以上の実務経験を有し,かつ当該分野の専門資格を持つ場合
  • c) 労働傷病兵社会省の提議により政府首相が決定した特別な場合

旧政令では,「専門家」に関する労働許可証取得の条件は,以下のAかBのいずれかでした(旧政令3条3項)。

A 外国機関,組織,企業が専門家であると認定した証明書を有する場合

B 大学卒業証明書或いは同等の学位を持ち,3年以上の実務経験を有する場合

旧政令下では,例えば,実務経験が3年未満の場合,日本本社がベトナム駐在員について専門家証明書を発行さえすれば,大卒や3年以上の実務経験という要件を充たさない場合でも「専門家」として申請することが可能でした。しかし,新政令では「A(専門家証明書)」が廃止され,代わりに,必ずしも大学等を卒業していなくとも5年の実務経験があれば「専門家」としての労働許可証が発給されることになっています(新政令3条3項b号)。

労働許可証の期間と延長

労働許可証の有効期間は最長で2年で,「延長」は2年を限度に1回限りで認められています(新労働法155条)。旧法及び旧政令下では「延長」に関する規定が存在せず,新法及び新政令により,その具体的な手続(新政令16条及び17条)とともに新設されたことになります。
 なお,旧法下で発給された労働許可証について,新法・新政令に基づいて「延長」申請ができるかに関しては,2021年3月8日付けで在ベトナム日本大使館が,「新政令第17条に沿って労働許可証の延長申請をしようとしたところ,政令改正に伴い新規申請という扱いとなり,新規申請に必要な書類の提出を求められた。」との事象が発生している旨を注意喚起しているように,実務での取り扱いは統一されていないようです。

ベトナム刑法240条【人に危険な感染症を拡散させた罪】と労務リスク管理

2020年からのコロナ禍はベトナムでも例外ではなく,ベトナム国内でのコロナ陽性者数の急増,かつ日系企業の日本人にも陽性者が出たこともあって,会社の労務リスク管理の一環として「刑法」に関する相談を受けることがあります。

ベトナム刑法(2017年改正施行)は,コロナの前から「人に危険な感染症を拡散させた罪」を規定しています(240条)。同条第1項はその法定刑を「5000万ドン(約25万円)から2億ドン(100万円)の罰金」または「1年以上5年以下の懲役」と規定し,かなり重い刑罰になっています(死亡者を出した場合には加重される規定もあります。)。

実際に,ベトナムでは,市中感染を引き起こした者が特定され,故意に拡散した場合でなくても「人に危険な感染症を拡散させた罪」で逮捕,起訴されているケースも出ています。

この「罰則」の存在が「不要不急の外出」に対する抑止効果となっていることも事実で,日本の刑罰なしの緩い「緊急事態宣言」とは,そもそも憲法の規定も含め感染症など危機に対する国家の姿勢が大きく異なっているのです。

その意味で,ベトナムに進出している日本企業としては,日本と同じように気軽に行動すると思わぬ逮捕者を出すことにもなるので,労務リスク管理として「刑法」の周知も必要となります。

【ベトナム刑法条文】

Điều 240. Tội làm lây lan dịch bệnh truyền nhiễm nguy hiểm cho người

1. Người nào thực hiện một trong các hành vi sau đây, làm lây lan dịch bệnh truyền nhiễm nguy hiểm cho người, thì bị phạt tiền từ 50.000.000 đồng đến 200.000.000 đồng hoặc bị phạt tù từ 01 năm đến 05 năm:

c) Hành vi khác làm lây lan dịch bệnh nguy hiểm cho người.

ベトナムにおける労働契約

1 労働契約の種類

ベトナム労働法における「労働契約」の種類は,次の3種類に限定されています(労働法22条1項)。

  1. 期限の定めがない労働契約
  2. 期限の定めがある労働契約(12ヶ月以上36ヶ月以下)
  3. 期限の定めがある労働契約(12ヶ月未満)

①は契約の効力が終了する期限・期日が定められていない労働契約です。②は12ヶ月以上36ヶ月以下の期間内で契約の効力が終了する期限・期日を定めた労働契約です。③は,季節的業務又は特定業務に限って認められる,12ヶ月未満の期限が定められた労働契約です。

①は日本の「正社員」に相当するもので,ベトナムでの労働契約の基本形です。

②と③は「有期労働契約(契約社員)」に相当するものです。日本の労基法では,原則として上限3年以下で(労基法14条1項),これはベトナムも同じですが,下限については日本では特に制限はありません。

これに対し,ベトナムでは,下限12ヶ月が法定され,季節的業務又は特定業務に限って12ヶ月未満の労働契約が認められています。このような業務内容での制限に加え,その性質上12ヶ月以上を要する通常の業務については,「③期限の定めがある労働契約(12ヶ月未満)」を締結することは,兵役義務,産休,傷病又は労災の代替人員確保のためという例外を除いて,そもそも認められていません(労働法22条3項)。したがって,通常の業務については,③は認められず,①か②の労働契約を締結する必要があります。

2 有期労働契約の更新について 

②③の有期労働契約については,その期限到来後に労働者が労務提供を継続する場合には,期限到来後30日以内に新しい労働契約を締結する,つまり労働契約を更新する必要があります。

もし,更新されない場合には,②については「①期限の定めがない労働契約」に,③については24ヶ月の「期限の定めがある労働契約」に,それぞれ変更されたものとみなされます(労働法22条2項)。

さらに,②③の「期限の定めがある労働契約」の更新は,1回しか認められておりません(労働法22条2項)。

1回の更新後,労働者が労務提供を継続するには,「期限の定めがある労働契約」での2回目の更新は認められず,「①期限の定めがない労働契約」を締結することが義務づけられています(労働法22条2項)。

そのため,ベトナムにおける有期労働契約は,36ヶ月×2回の6年が法定された最長期間となっており,日本の労働契約法における「有期労働契約の更新(19条)」や「有期労働契約の無期転換(18条)」と比較して,ルールが明確であり,反面厳しくなっています。

ホーチミン市「SECC」で開催された「VIETWATER 2018」

ベトナムにおける労働契約の形式・内容

1 書面締結義務

日本では,労働条件の明示を書面で行うことは要求されていますが(労基法15条,施行規則5条),労働契約については,書面で行うことは,必ずしも要求されていません(労働契約法11条)。

これに対し,ベトナム労働法では,契約期間3ヶ月未満の短期業務を除いて,「書面」での労働契約の締結が義務付けられ,契約書を2部作成の上,労使それぞれが1部ずつ保有することとされています(労働法16条1項)。なお,15歳以上18歳未満の労働者との労働契約には,法定代理人の同意が必要となっています(労働法18条1項)。

2 労働契約の内容 

労働契約書での必要的記載事項は次のとおりです(労働法23条1項)。

①使用者(又はその代表者)の名称及び住所,②労働者の氏名,生年月日,住所,IDナンバー(外国人労働者の場合は,労働許可証の番号,発行日及び発行機関),③業務内容及び就業場所,④契約期間,⑤賃金,支払方法,支払期日,手当及びその他,⑥昇給制度,⑦労働時間,休憩時間,⑧労働者のための労働安全設備,⑨社会保険及び医療保険,⑩教育,育成,職業技能レベル向上に関する事項。

日本では書面化自体が義務ではないこともありますが,ベトナムの労働法においては,日本における労働条件として明示すべき事項(労基法15条,施行規則5条)よりも,詳細な内容が要求されていると言えます。

そして,例えば,③業務内容及び就業場所については,労働契約の内容となっていますので,従事する業務を変更したり,就業する場所を変更する場合には,単に業務命令では足りず,新たに労働契約書を締結し直す必要が出てきます。

また,営業上及び営業上の機密についての守秘義務とそれに違反した場合の損害賠償等については,任意的記載事項とされています(労働法23条2項)。これらの守秘義務については,日本では,労働契約書や就業規則に規定せずとも労働契約に当然に伴う義務(付随する義務)と認められるケースもありますが,ベトナムでの法律の規定の仕方を見る限り,労働契約書にて規定されない限り,これらの守秘義務の存在そのものが認められない可能性もあります。

なお,後にも述べますが,ベトナムでは,いわゆる任意的記載事項として記載するべき事項が,例えば「(普通)解雇」や「試用・本採用」などで取り分け重要な意義をもつことになります。

3 兼業(副業)の権利

日本では最近になって副業を認める企業も出てきましたが,それでも,就業規則などで兼業(副業)が禁止されているのが一般的です。

これに対し,ベトナムでは,労働者の権利として,複数の使用者と労働契約を締結すること,すなわち兼業が認められています(労働法21条)。労働者の権利として認められていますので,これを労働契約や就業規則で禁止することは,日本とは逆に,労働法違反になってしまいます。  

日本企業により進められているホーチミン市内の地下鉄工事の現場(平成30年1月)

ベトナムにおける「解雇」

1 労働契約の終了事由としての「解雇」

ベトナムの労働法では,労働契約の終了事由が次のように法定されており(労働法36条),「解雇」もそれに位置付けられています。

①契約期間満了,②契約に基づく業務の完了,③合意による終了,④労働者が社会保険加入期間を充たし年金受給年齢(男60歳,女55歳)に達した場合,⑤労働者が懲役・死刑などの判決を受けた場合,⑥労働者の死亡等,⑦使用者の業務停止等,⑧(懲戒)解雇,⑨労働者による解約,⑩使用者による解約及び⑪企業の合併等に伴う場合。

2 ベトナムにおける「解雇」の種類

日本の「解雇」に相当するものは⑧,⑩及び⑪になります。⑧は日本の「懲戒解雇」に,⑩は「普通解雇」に,⑪は「整理解雇」に相当するものです。

ベトナムにおける「解雇」の特徴は,日本のそれが「合理性・社会的相当性」あるいは「整理解雇の4要件」など,いずれも裁判所が立てた解釈基準に基づき有効性が判断されるのに対し,「解雇」できる場合が法定されていることにあります。一般論としては,厳しい規制ではありますが,他方でルールが明確化されているとも言える制度になっています。

3 「普通解雇」が認められる場合

「普通解雇」が認められるのは,次の事由に限られています(労働法38条1項)。

  • a) 労働者が労働契約に基づく業務の未完了を繰り返す場合
  • b) 労働者が傷病により一定期間(例えば期間の定めがない労働者は連続12ヶ月間)療養するも復職しなかった場合
  • c) 天災などの不可抗力によりやむを得ず生産・施設の縮小せざるを得ない場合
  • d) 労働者が,兵役,勾留又は産休など労働法32条に定める労働契約一時停止期間が終了して15日を経過するも,復職しなかった場合

4 a) 「業務の未完了を繰り返す」について

一般的な普通解雇の理由としては,a) の「業務の未完了を繰り返す」が多いのは日本と同じで,要件が抽象的なのも似ています。

しかし,ベトナムでは政令(05/2015/NĐ-CP)12条1項にて,「業務の未完了を繰り返す」の評価の基礎となるよう,会社の規則(就業規則に限りません。)にて,「業務の完了」といえるレベルの評価基準を具体的に定めることが義務付けられています。

5 事前通告義務

「普通解雇」をする場合には,期間の定めがない労働者に対しては45日前に,期間の定めがある労働者に対しては30日前に,通告する義務があります(労働法38条2項)。

6 「退職手当」の支払義務

普通解雇を行った場合には,勤続12ヶ月以上の労働者に対しては,6カ月間の平均賃金をもとに算出した月額賃金の半分に勤続年数を乗じた金額を,「退職手当(trợ cấp thôi việc)」として支払う義務があります(労働法48条)。

7 違法な「普通解雇」における賠償義務

もし「普通解雇」が違法と判断された場合には,労働者を復職させなければならず,復職するまでの賃金と社会保険料・医療保険料に加え,最低2カ月分の賃金を「賠償金」として支払う義務があります(労働法42条)。

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ベトナムにおける「試用」

1 「試用」の法定

日本で一般的な「試用」ですが,その期間などについて労基法その他の法令で規律はされていません。そのため,就業規則や労働契約書で定められますが,労基法その他の法令でその期間の長さに関する規制は存在せず,3ヶ月を中心に,1カ月から6カ月の範囲で,各企業の判断で定められます。

これに対し,ベトナムでは,その労働法に「試用(thử việc)」に関する規定が設けられています(労働法26条から29条)。

2 試用期間

ベトナムにおける試用期間は,労働者が従事する業務の専門性・技術性の高さにより,以下の①から③のように上限が法定されています。

一般論としては,日本と比べると,短期である反面,その終了などに関するルールが明確化されていると言えます。なお,季節的業務については,その労働契約期間自体が12ヶ月未満と短期なため(労働法22条1項C号),試用期間を設けることは認められていません(労働法26条2項)。

  • ① 短大以上の技術又は専門レベルが必要な職種の業務については,60日を超えないこと。
  • ② 職業学校,専門学校,技術工員,専門スタッフの技術専門レベルが必要な職種の業務については,30日を超えないこと。
  • ③ その他の業務については,6営業日を超えないこと。

①や②の「レベル」の明確な基準については,法律上明らかではありません。ハノイ工科大を卒業したような高度な技術を持つITエンジニアは①に該当し,その試用期間の上限は「60日」となり,一般的な事務員や店員などは③「その他の業務」に該当し,試用期間は6営業日以内と,かなり短いものになる言うことができます。

また,同一業務での「試用」は1回限りとされています(労働法27条柱書)。そのため,試用期間の上限が法定されていることとの二重の意味で,日本で行われる試用期間の“延長”は,法律上認められていません。

3 試用期間中の賃金

試用期間中の賃金は,当該業務の標準賃金の85%を下回ることはできません(労働法28条)。

4 試用期間の満了

試用期間中において,各当事者は,試用労働が当事者で合意した条件に達しない場合,通知や補償をすることなく,試用契約を解除する権利を有しています(労働法29条)。

日本では,試用期間中の解雇や本採用拒否は,解釈により「留保解約権の行使」として扱われていますが,ベトナムでは「試用労働が当事者で合意した条件に達しない場合」との要件のもと,試用契約の途中解除,つまり解雇が認められています。

逆に,合意した条件に達する場合には,使用者は,試用期間満了後,その労働者と労働契約を締結する,つまり本採用する義務を負っています(条件に達しない場合は本採用拒否できます。)。

そのため,労働契約で定める「条件」が非常に重要で,(日本でも同様のことが言えますが)企業としては,労働(試用)契約において,(試用)労働者が達成すべき条件を可能な限り具体的に明示する必要があると言えます。

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ベトナムにおける賃金の原則

1 「同一労働同一賃金」

賃金については,日本と同様に,平等原則が適用され,性差別などが禁止されているのに加え,いわゆる「同一労働同一賃金」が明文化されています(労働法90条3項)。ベトナム労働法は,労働契約の種類として,契約期間の定めがない労働契約(いわゆる正社員)と,契約期間の定めがある労働契約(いわゆる契約社員)とを規定し(労働法22条),契約期間の有無を除いて差異を設けていないことから,「同一労働同一賃金」の原則は,“正社員”と“契約社員”との間にも適用されます。また,ベトナム労働法は,労働者派遣においても,派遣元事業主に対し,派遣労働者について,派遣先の労働者との比較において「同一労働同一賃金」となるよう保証することを求めています(労働法56条5項)。

2 最低賃金規制

ベトナムにも地域別の最低賃金規制が存在しており,ほぼ1年に1回,政府が決定し,公表しています(労働法91条)。なお,社内外を問わず,職業訓練を要する業務又は職位の賃金に関しては,政府が定める最低賃金に少なくとも7%の上乗せが必要とされています(政令(49/2013/NĐ-CP)7条3項b号)。

3 賃金テーブル作成義務

ベトナム労働法の特徴の一つに賃金テーブル策定の義務があります。使用者は,政府が政令(49/2013/NĐ-CP)で規定する原則に従い,事業所内の労働組合の意見を参照した上で,「賃金テーブル」を策定しなければなりません(労働法93条1項)。また,出来高払い制の労働者に関しては,賃金計算の基準となる「労働基準(ノルマ)」を作成する必要もあります(同項及び政令(121/2018/NĐ-CP)1条1項)。

「賃金テーブル」や「労働基準」については,施行前に事業所にて公表・公開しなければならず,これらを管轄労働当局に「送付」することが義務付けられています(労働法93条2項)。もっとも,労働者10名未満の零細な企業については,策定は義務であるものの,当局への「送付」義務は,近時の政令(121/2018/NĐ-CP)で免除されるに至っております(同政令1条2項)。これは,「送付」は「Gửi」の翻訳ですが,同じく「送付」と足りるとされている「時間外労働延長申請」や「労働協約」と同様,郵送は不可で,実際は当局の窓口に提出し,その審査を受けなければならず,零細企業に「負担が重い」との批判を受けて,政令により修正されたものです。

4 賃金控除

強制社会保険,医療保険,失業保険及び所得税のほか,賃金からの控除は,労働者が使用者の設備などを損壊したことによる損害賠償金のみが認められています(労働法101条1項)。控除できる金額は,上記各種保険料及び所得税を控除した後の金額の30%までです(同条3項)。

5 休業手当

使用者の「責任(Lỗi)」による休業については,全額の賃金支払いが義務付けられています(労働法98条1項)。不可抗力による休業においても,最低賃金を下回らない範囲で,労使が合意した金額を支払う必要があります(同条3項)。

ベトナムの最低賃金規制

毎年10月1日になると新しい最低賃金が施行される日本ですが,ベトナムでは毎年1月1日から最低賃金が改訂されることになっています。

都道府県別に最低賃金が定められている日本とは異なり,ベトナムでは,4つの地域ごとに地域別の最低賃金(mức lương tối thiểu)が制定されています。第1地域はハノイ・ホーチミンなどの都市部,第2地域はハノイ・ホーチミン市外及び主要地方都市部,第3地域は地方都市,第4地域はその他となっています。

ベトナムは,2008年以降,毎年,年末近くに,翌年1月1日から適用される地域別最低賃金を定める政令を公布しています。

政令(157/2018/NĐ-CP)によると,2019年1月1日以降の地域別の最低賃金は,以下の通りになっています。

  月額(VND) 2018年比上昇率
(VNDベース)
第1地域 4,180,000 5%
第2地域 3,710,000 5.1%
第3地域 3,250,000 5.2%
第4地域 2,920,000 5.8%

東京の最低賃金(時給)は,2017年の958円が,2018年には985円に上昇しています。上昇率は2.8%です。これに対し,ベトナムでは,前年は6%程度上昇していたので若干上昇率が鈍化しましたが,それでも5%以上上昇しています。

ベトナムの通貨ドン(VDN)は,1円約200ドンなので,ホーチミンなどの都市部では,月額2万円程度が最低賃金となります。東京では,月160時間勤務したとすると,月額15万7600円が最低賃金となるので,単純に比較するのは無理も承知ですが,ベトナム都市部の最低賃金は,東京のそれの8分の1程度ということになります。

ベトナムにおける労働時間に関する規制

1 労働時間の規制

ベトナムにおける通常の業務の1日の法定労働時間は,日本と同様,8時間です。これに対し,週の法定労働時間は,平成前半までの日本で採用されていた48時間となっています(104条1項)。週休2日制は,週労働時間規制からの制度的な要請ではありません。ただ,国が使用者に対し週40時間労働を推奨していることもあり(同条2項),多くの企業(特に日本などの外資系企業)では,土・日を休日とする週休2日制が採られています。

2 休憩時間

連続8時間勤務の場合,途中で最低30分の休憩を取らせることが義務付けられており,さらに,この休憩時間は,日本と異なり,労働時間に算入されます(108条1項)。

3 時間外労働

ベトナムの「時間外労働」は,上記の法定労働時間だけでなく,就業規則に基づく所定労働時間も対象となっております(106条1項)。そのため,所定労働時間が法定労働時間より短く規定されている場合には,所定労働時間を超える労働は「時間外労働」となり,その点に関する就業規則上の規定の有無に関わらず,法律上,残業代を支払う義務が出てきますので注意が必要です。

4 時間外労働に対する規制

「時間外労働」を労働者に行わせるにあたっては,さらなる厳しい規制があります。

まず,労働者に「時間外労働」を行わせるためには,国防・安全保障上など特別な理由がない限り,労働者本人の同意が必要になります(106条2項a号)。同意が不可欠の要件なのです。

その上で,1日あたりの「時間外労働」は,労働時間の50%(所定労働時間が法定労働時間と同じ8時間の場合,4時間)を超えることはできず,1カ月あたりでは30時間を超えることができません(106条2項b号)。

5 年間の時間外労働規制

さらに,1年あたりの「時間外労働」は,200時間超えてはならないと規制されています(106条2項b号)。

例外的に,政令(45/2013/NĐ-CP)4条2項a号で定める「緊急で遅延できない業務を行う場合」などの特別な場合に限り,管轄の当局に書面で通知(thông báo)することにより(同政令同項b号),300時間までの延長が認められています(106条2項c号)。もっとも,単なる「通知」では足りず,当局による裁量判断が行われる場合や,後日,当局による査察でチェックを受けることもあります。

なお,年200時間という残業規制については,特に外資からの批判が多く,400時間に改正される動きがありますが,労働者側はこれに反対しているようです。

6 深夜労働

ベトナムにおける「深夜労働」は,22時から翌朝6時までです(105条)。深夜労働においては,途中で最低45分の休憩を当る必要があり,この休憩も労働時間に算入されます(108条2項)。

ハノイの労働新聞社

ベトナムの祝日・年次有給休暇

 

1 ベトナムの祝日(Nghỉ lễ) 

日本の法定の祝日は,他国と比べてかなり多く,それが年次有給休暇の取得を阻害しているとさえ言われています。

これに対し,ベトナムの労働法が定める祝日は,次の6件で,合計10日になります(労働法115条1項)。ベトナムもカレンダーは,日本と同じ陽暦(新暦)を使っていますので,陰暦(旧暦)の日付を祝日としている②と⑥の具体的な日は,毎年変ることになります。なお,この祝日期間については,賃金が全額支払われます(労働法115条1項)。

① 陽暦の正月(1月1日)    1日

② 陰暦の正月(Tết テト)   5日間

③ 戦勝記念日(4月30日)   1日

④ 国際労働日(5月1日)    1日

⑤ 建国記念日(9月2日)    1日

⑥ フン王忌日(陰暦3月10日) 1日

2 外国人労働者について

日本人のような,ベトナムから見た外国人がベトナムで働いている場合には,上記ベトナムの祝日に加え,当該外国の民族伝統的な正月に1日,その国の建国記念日に1日,それぞれ「祝日」とすることが義務付けられています(労働法115条2項)。

3 個人的な理由による休暇

日本では,就業規則などで有給か無給かを含め,会社が独自に設定するいわゆる「特別休暇」がありますが,ベトナムでは,これに相当する休暇が,労働法で定められています(労働法116条)。

  1. 次の事由については,記載の期間休むことができ,さらに賃金が全額支払われます。

      ①(労働者自身の)結婚 3日間
      ②子の結婚        1日
      ③実父母,義父母,配偶者又は子の死亡 3日間
  2. 次の事由については,賃金は支払われませんが,使用者に連絡することにより1日休むことができます。

     ①父方の祖父母,母方の祖父母,兄又は姉弟妹の死亡
     ②父,母又は兄弟姉妹の結婚
ディエン・ビエン省の労働傷病兵社会局

4 年次有給休暇(Nghỉhắng năm)

ベトナムでは,労働者が同一使用者の下で12カ月間勤務した場合に,12日の年次有給休暇が付与されます(労働法111条1項)。

なお,危険な業務などの場合には14日,特別に危険な業務などの場合には16日,それぞれ特別に多い年次有給休暇が付与されることになっています(労働法111条1項)。

使用者は,事前に労働者の意見を聴き,労働者に通知することにより,年次有給休暇消化のスケジュールを規定することができます(労働法111条2項)。

労働者は,使用者と協議の上,年次有給休暇を複数回に分割して取得したり,最大3年分をまとめて取得することができます(労働法111条3項)。

そして,ベトナムの年次有給休暇は,5年勤続するごとに1日ずつ増加されます(労働法112条)。

ベトナムの就業規則(Nội quy lao động)

 

1 就業規則(Nội quy lao động)の作成義務

ベトナムでも日本と同様,使用者は,10人以上の労働者を使用する場合に,就業規則を作成する義務を負います(労働法119条1項)。しかも,必ず「書面」で作成しなければならないとされています(労働法119条1項)。

就業規則の内容は,当然のことながら,労働諸法令及びそれに関連する法律の規定に違反してはなりません(労働法119条2項)。

ベトナムにおける就業規則の主な記載事項は,次のとおりです(労働法119条2項)。

  1. 労働時間・休憩時間
  2. 職場の秩序に関する事項
  3. 職場の労働安全・労働衛生に関する事項
  4. 使用者の資産,営業機密,技術機密及び知的財産権に関する事項
  5. 労働規律違反行為,労働規律処理の形態
労働新聞紙

2 就業規則の作成手続

使用者は,就業規則を公布する前に,使用者は,事業所の労働組合の代表機関の意見を聴く必要があります(労働法119条3項)。

3 就業規則の周知・掲示

就業規則は,労働者に周知し,その主要な内容については職場のしかるべく場所に掲示する必要があります(労働法119条4項)。

4 就業規則の「登録」

使用者は,省レベルの労働国家管理機関(以下「当局」とします。)に就業規則を登録をする必要があります(労働法120条1項)。

使用者は,就業規則を社内で公布してから10日以内に,就業規則登録書類を当局に提出しなければなりません(労働法120条2項)。

そして,ベトナムでは,日本の「届出」と異なり,「登録」なので,当局により就業規則の内容が審査されます。

当局は,受領した就業規則に法令違反がある場合には,就業規則登録書類を受領してから7労働日以内に,その旨を使用者に通知し,修正,追加又は再提出を指導します(労働法120条3項)。

5 就業規則登録書類

就業規則を登録する際に当局に提出する書類は,以下のようなものです。

  1. 就業規則登録申請書
  2. 労働規律に関係する規定がある書面
  3. 事業所の労働組合の代表機関の意見の記録書
  4. 就業規則
ディエン・ビエン・フー市の様子

6 就業規則の効力

就業規則は,前述の当局による修正等の指導があった場合を除き,当局が就業規則登録書類を受領してから15日後に効力が発生します。

日本と異なり,ベトナムでは,当局への「登録」が就業規則の効力発生要件となっています。

ベトナムにおける懲戒処分(Xử lý kỷ luật lao động)

 

1 懲戒処分の種類

ベトナムの労働法では,服務規律違反行為(hành vi vi phạm kỷ luật lao động)及びこれに適用されるべき懲戒処分については,就業規則(nội quy lao động)に定めるべきとされています(労働法119条2項đ号)。これは日本と同様ですが,さらにベトナムでは,懲戒処分の種類が以下の4種類に法律で限定されています。

  1. 譴責・戒告(Khiển trách)
  2. 昇給期間延長(ただし6カ月を超えない。)
    (Kéo dài thời hạn nâng lương không quá 06 tháng)
  3. 降格(Cách chức)
  4. 懲戒解雇(Sa thải)

そのため,日本でお馴染みの「減給」や「諭旨解雇」は,懲戒処分としては認められないことになります。むしろ「減給(cất lương)」については,“罰金(phạt tiền)”とともに,法定の懲戒処分に替えてこれを取ることが明確に禁止されています(労働法128条2項)。もっとも,懲戒処分ではないものの,労働者が使用者の財産等に損害を与えた場合の賠償については,賃金からの控除という形で,その金額及び方法が法律でルールが明確に決めれています(労働法130条~132条)。

2 懲戒解雇の処分事由

懲戒処分に該当する服務規律違反行為(懲戒処分事由)については,ベトナムでも就業規則で定めることとされており,譴責・戒告,昇給期間延長及び降格については,使用者において任意に規定することができます。

しかし,“極刑”である「懲戒解雇」については,それを適用しうる懲戒事由が,次の3事項に法律で限定されています(労働法123条)。

  1. 労働者が,事業所内で窃盗,横領,賭博,傷害若しくは麻薬使用を行った場合又は使用者の営業・技術機密の漏洩若しくは知的財産権を侵害する行為により使用者の財産・利益に重大な損害を発生させた場合若しくは特別な損害を発生させる可能性がある場合(労働法126条1項)。
  2. 昇給期間延長又は降格の懲戒処分を受けた労働者が,処分期間中に,処分を受けた行為と同じ服務規律違反行為を行った場合(労働法126条2項)。
  3. 労働者が,正当な理由なく,1カ月のうちに合計5日又は1年のうちに合計20日を無断欠勤した場合(労働法126条3項1段)。

なお,「正当な理由」について,労働法は,天災,火災又は本人若しくは親類の病気(権限ある医療機関の証明が必要)の場合を法定し,それ以外を就業規則記載事項としています(労働法126条3項2段)。

3 「出勤停止(Tạm đình chỉ công việc)」について

日本では懲戒処分とされることが多い「出勤停止」ですが,ベトナムでは,懲戒処分ではなく,前述の法定懲戒処分に際し,事案の複雑さ等から労働者が業務を継続していると審査に支障がある場合に使用者の権利として認められているに過ぎません(労働法129条)。

4 懲戒処分の時効(Thời hiệu xử lý kỷ luật lao động)

日本では,訴訟で懲戒処分の時期の是非は争われることはありますが,懲戒処分に法律上の「時効」はありません。

これに対し,ベトナムでは,原則として服務規律違反行為の日から6カ月,使用者の財政,資産,営業・技術機密漏洩に直接関係する服務規律違反行為については例外的に12ヶ月で時効となり,労働者に対する懲戒処分ができなくなります(労働法124条)。

労働紹介業許可書

ベトナムで働くための「労働許可書」 giấy phép lao động

1 「労働許可書」の取得義務

日本人も,ベトナムでは“外国人”なので,当然のことながら,自由に就労することはできません。

ベトナムの労働法も,外国人がベトナムで就労する場合の条件を規定しています(労働法169条)。その条件では,①完全な民事行為能力を有すること,②職務の要求に合致する専門性,技能及び健康を有すること,③ベトナム及び外国法律に基づく犯罪を犯していない者又は刑事責任を追及されていない者などの一般的なものに加え,原則として,ベトナムの権限ある国家機関が発給する「労働許可書(giấy phép lao động)」が必要とされています(労働法169条1項)。

2 「労働許可書」の意義

外国人労働者は,出入国の際の手続や,管轄の国家機関が要求した場合には,労働許可書を提示しなければなりません(労働法171条1項)。

外国人が,労働許可書の発給を受けることなくベトナムで就労していた場合には,政令に基づき,ベトナム国外に追放されます(労働法171条2項)。

労働許可書を持たない外国人を就労させた使用者は,法律の規定に基づき処分されることになります(労働法171条3項)。

なお,労働許可書の有効期間は最長2年です(労働法173条)。

3 「労働許可書」の取得義務の例外

 下記の者は,例外的に「労働許可書」の取得義務が免除されています(労働法172条)。

①有限責任会社の出資者又は所有者,②株式会社の取締役,③在ベトナム国際機関又は非政府機関の駐在員事務所又はプロジェクトの長,④販売活動のために3ヶ月未満ベトナムに滞在する者,⑤ベトナムに現在するベトナム人専門家又は外国人専門家では処理できない,生産,経営に影響を与える又は影響与えるおそれがある複雑な技術,技能上の事故,状態を処理するため,3ヶ月未満ベトナムに滞在する者,⑥弁護士法の規定に基づきベトナムで弁護士業の許可書の発給を受けた外国弁護士,⑦ベトナムが加盟している国際条約の規定に基づく者,⑧ベトナムで就学中の学生(ただし,使用者は7日前までに省レベル国家労働管理機関に通知しなければなりません。),⑨その他政令で定める場合(WTOコミットメント11サービス分野に属する事業を行う企業内異動,報道関係者,ボランティアなど)

4 労働許可書が失効する場合(労働法174条)

①労働許可書の有効期間が満了した場合,②労働契約が終了した場合,③労働契約の内容が発給された労働許可書の内容と一致しない場合,④経済,貿易,財政,銀行,保険,科学技術,文化,スポーツ,教育又は医療の分野における契約が失効又は終了した場合,⑤ベトナムで就労する労働者の送り出しを停止する旨の外国側からの通告書面がある場合,⑥労働許可書が取り消された場合,⑦企業,組織,ベトナム側パートナー又は非政府機関の活動が終了した場合,⑧外国人労働者が収監もしくは死亡した場合または裁判所により死亡または失踪宣告がなされた場合

ベトナムにおける労働関連の社会保険(Bảo hiểm xã hội)

1 ベトナムにおける労働関連の社会保険の種類

ベトナムにおける労働関連の社会保険には,①(狭義の)社会保険,②失業保険及び③健康保険があります。①は社会保険法に,②は失業保険法に,③は医療保険法にそれぞれ依拠しています。

2 (狭義の)社会保険(Bảo hiểm xã hội)

(狭義の)社会保険は,「疾病給付,妊娠出産給付」,「労災・職業病の給付」及び「退職年金,遺族給付」から構成されています。

ベトナム人に関しては,期間の定めがない労働契約を締結した労働者(いわゆる正社員)のみならず,期間の定めがある労働契約を締結した労働者(いわゆる契約社員)についても,1か月以上(上限は36ヶ月)の期間を定めた労働者についても加入が強制されています。

保険料の負担比率は,使用者が給与等の17.5%を拠出し,労働者が給与等の8%を負担します。

外国人の(狭義の)社会保険加入義務については,「強制社会保険への外国人労働者加入に関する政令(143/2018/ND-CP)」が2018年10月15日付で公布され,労働許可書等を取得し,ベトナムで1年以上の期間を定めた労働契約(期間の定めがない場合も含む。)を締結している外国人(当然,日本人を含む。)の(狭義の)社会保険加入が強制されるようになりました。もっとも,社内異動による場合とベトナムの定年に達した者は適用外とされています。

こうして,外国人については,(狭義の)社会保険のうち「疾病給付,妊娠出産給付」及び「労災・職業病の給付」に関わる保険料について,2018年12月1日から使用者に支払い義務が発生しています。保険料率は合計で使用者3.5%で,労働者の負担はありません。

なお,外国人の「退職年金,遺族給付」に関わる保険料については,2022年1月1日から支払い義務が発生する予定です。保険料率は,使用者が14%,労働者負担が8%とされています。

3 失業保険(Bảo hiểm thất nghiệp)

離職の理由を問わずに,失業者に対し,直近6ヶ月間の平均賃金の60%に相当する金額を,加入期間に応じて3ヶ月から12ヶ月の間で支給するというものです。ただし,支給されるのは,失業前の24カ月間に12ヶ月分の失業保険料を納付していることが条件になります。

期間の定めがない労働者に加え,3ヶ月以上(上限は36ヶ月)の期間を定めた労働者についても加入が強制されています。外国人には加入義務はありません。使用者及び労働者が給与等の1%をそれぞれ負担します。

4 医療保険(Bảo hiểm y tế)

日本の健康保険に相当するものです。期間の定めがない労働者に加え,3ヶ月以上(上限は36ヶ月)の期間を定めた労働者についても加入が強制されています。医療保険については,外国人も加入義務があります。

保険料率は,使用者が3%,労働者負担が1.5%とされています。医療費の自己負担率は基本的には20%です。

ハイフォン薬科大学

ベトナムにおける女性労働者の権利

1 一般原則

日本と比べても女性の社会進出が進んでおり,むしろ女性が労働に限らず社会の中心ともいえるベトナムでは,当然のことのように女性労働者の地位や権利が保証され,実際に各企業において励行されています。

労働法は,まず一般原則として,使用者に対し,下記の事項を義務付けています(労働法154条)。

  1. 採用,使用,職業訓練,労働時間,休憩時間及び賃金その他制度における男女平等及び男女平等促進措置の実施の保証
  2. 女性の権利及び利益に関する諸問題を決定する際の女性労働者又はその代表者の意見の聴取
  3. 職場にマッチした十分なシャワー及びトイレの設置
  4. 保育所や幼稚園の設立又は女性労働者が子供を預ける費用の一部の支援や援助

2 定期健康診断

ベトナムでも,日本と同様,少なくとも年1回の定期健康診断の実施が義務付けられています(労働法152条2項)。これに加えて,特に女性の労働者については,産婦人科の検診を義務付けています(労働法152条2項)。

3 残業等の禁止

以下のいずれかに該当する女性労働者については,時間外労働,深夜労働及び出張が禁止されています(労働法155条1項)。

  1. 妊娠7か月以上
  2. 12ヶ月未満の子供を育児中

3 解雇及び懲戒処分の禁止

使用者は,結婚,妊娠,産休又は12ヶ月未満の子の育児を理由に,女性労働者を解雇してはならず(労働法155条3項),女性労働者は,妊娠,産休又は12ヶ月未満の子の育児中に,懲戒処分を受けることはありません(労働法155条4項)。

4 特別の休憩

女性労働者は,通常の休憩に加え,下記の場合にそれぞれの時間,休憩を取ることができます(労働法155条5項)。

  1. 生理中 1日に30分
  2. 12ヶ月未満の子の育児中 1日に60分

5 産休

ベトナムの産休制度は,産前産後で合わせて6カ月間であり,そのうち“産前”については2ヶ月以内とされていて,日本(産前6週,産後8週)と比べて,特に“産後”休暇が長くなっています(労働法157条1項)。

さらに,法定の産休期間が終了した後でも,女性労働者は,使用者と合意することにより,追加で産休を取得することができます(労働法157条4項)。

また,女性労働者は,法定の産休期間(6か月)が経過する前に,認定医の診断書を条件に,使用者の同意を得たうえで,最短で4ヶ月経過後から職場に復帰することができます(労働法157条4項)。なお,この場合,通常の賃金に加え,社会保険法上の「産休手当」を引き続き受給することができます(労働法157条4項)。

女性労働者は,産休期間経過後の職場復帰の際に,従前の業務への復帰が保証されています(労働法158条)。従前の業務がなくなった場合には,使用者は,当該女性労働者を他の業務に配属しなければならず,賃金も従前より下回ってはならないとされています(労働法158条)。

ベトナム女性連合の女性開発センター
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