A.佐川法律事務所では,ベトナムに進出している日本企業及びベトナム進出を検討している日本企業に対する法的支援等のサービスを提供しています。日本企業によるベトナム子会社設立,日本企業によるベトナム法人のM&A,そして,親会社としての日本企業のIPOを前提としたベトナム子会社に対するデューデリジェンス,M&Aの対象としてのベトナム法人に対するデューデリジェンスなどの実績があります。
ベトナム企業に対するM&A
日本企業のベトナム進出方法としては,現地に子会社を設立する方法に加え,既に設立されているベトナム企業を買収する方法,いわゆるM&Aも一般的です。具体的には,ベトナム企業の株式又は持分(以下「株式等」と総称します。)を取得することになります。
ベトナム企業の株式等の譲受については,ベトナムの企業法や投資法にこれを制限する規定はなく,原則として自由に譲渡することができ,これを日本企業などの外国企業が100%取得することも可能です。
日本企業は,投資法3条14項が定義する「外国投資家(Nhà đầu tư nước ngoài)」に該当します。そのため,ベトナムに新たに子会社を設立するという方法で「投資」する場合には,当局から「投資登録証明書(Giấy chứng nhận đăng ký đầu tư)」の発給を受ける必要があります(投資法36条1項a号)。
これに対し,ベトナム企業の株式等を取得する方法(M&A)での「投資」については,「投資登録証明書」の発給を受ける必要はありません(投資法36条2項c号)。また,このM&Aという手法,つまりベトナム企業の株式等を取得する方法による「投資」については,ベトナム国内に(株式取得を目的とした)会社を設立する必要はなく(投資法22条2項),日本企業が日本から直接に行うことができます。つまり,ベトナム当局の許可等の裁量判断を受けることなく,M&Aを実行することができるのです。
しかし,下記①②のいずれかに該当する場合には,「投資登録証明書」の取得は必要ないものの,当局への「登録(đăng ký)」の手続を取る必要があります(投資法26条1項)。そして,実務では,当局による実質的な審査が行われており,そのため,IRCの新規取得と同様の書類等の提出を求められたり,投資法26条3項b号では,当局は登録申請書類提出後15日以内に結果を通知することになっていますが,これが延びたりするのがむしろ一般的になっています。
- M&A対象ベトナム企業が条件付投資分野に属する事業を行っている場合
- ベトナム企業の株式等を51%以上取得するに至る場合
上記①②のいずれにも該当しない場合には,「登録」手続も必要ありません。
ただし,この場合でも,ベトナムでは,株主または社員変更の手続をとったうえで(投資法26条4項),当局にその旨を通知する必要があります(企業法32条1項及び2項)。
なお,日本企業にM&Aされたベトナム企業は,“外資”から出資を受けたことになるため,「外資系企業(Doanh nghiệp có vốn đầu tư nước ngoài)」に該当することとなり,その後,当該会社が行う事業については,投資法上,外資系企業としての規制を受けることになります(投資法23条)。
2021投資法に基づく「投資」の法的枠組
1 投資家の属性と「投資」の形態に応じた手続等の差異
ベトナムの投資法(Luật số: 61/2020/QH14)は,「投資」の形態として,(1)会社の設立と,(2)既存会社の株式取得を挙げ(投資法21条),経済活動を行うための「投資」を「事業投資(Đầu tư kinh doanh)」と定義した上で(投資法3条8項),ベトナム国内で「事業投資」を行う個人及び組織を「投資家(Nhà đầu tư)」として,その適用対象としています(投資法1条,2条及び3条18項)。
投資法は,その適用・規制対象である「投資家」を,①外国投資家(外国人又は外国企業),②内国投資家(ベトナム人又は外国投資家が株主にいないベトナム国内会社)または③外資系企業(外国投資家が株主にいるベトナム国内企業)に3区分しています。
その上で,(1)会社の設立と,(2)既存会社の株式取得という「投資」の形態の違いに応じて,適用される条件及び手続等に差異を設けています。
一番大きな違いは,ベトナム計画投資省(局)から「投資登録証明書(Giấy chứng nhận đăng ký đầu tư)」を取得すること(つまり当局からの許可)が必要か否かにあります。なお,③外資系企業については,その外資系企業内の外資持分比率が50%を超える場合には①と同様の規律に服し(投資法23条1項),50%以下の場合には②と同様に扱われることとされています(同条2項)。
(1) 会社の設立
①外国投資家がベトナム国内に会社を設立するには,必ず「投資登録証明書」を取得する必要があります(投資法37条1項a号,同法22条1項c号)。加えて,投資法9条に規定される外国投資家に対する「市場参入条件(Điều kiện tiếp cận thị trường)」を満たす必要があります(投資法22条1項b号)。これは出資比率がたとえ1%でも例外はありません。
これに対し,②内国投資家は,投資登録証明書は不要で(投資法37条2項a号),企業法や当該事業に関する法律に基づき会社を設立することができます。
(2) 株式取得
以上に対し,株式取得による「投資」については,①内国投資家だけでなく②外国投資家も「投資登録証明書」の取得は必要ありません(投資法37条2項c号)。ただし,この株式取得により50%超の株式を保有するに至る場合などについては,投資登録証明書は不要ながら,株式取得前に,当局への「登録」が必要とされています(投資法26条)。
2 投資法は「投資」に関する一般法
ベトナムへの「投資」については,ベトナム計画投資省(局)が一括管理しています(投資法69条)。その意味でも,投資法は,外国人や外国企業がベトナムで会社を設立したり,ベトナム国内企業を買収(株式取得)する際の一般法と言えます。
そして,石油ガスなど特に規制が必要な分野に関する法律や,上場会社の株式取得(M&A)に関して規定する証券法などは,その特別法という位置づけとなり,投資法に優先して適用されることになります(投資法4条)。
外資系企業に対する土地規制(2021投資法を踏まえて)
社会主義国であるベトナムでは,土地は全て国有です(土地法4条)。
ベトナム人やベトナム企業であっても,土地については,国から「土地使用権」を借りることになります。他方で,いわゆる外資系企業も,国から土地使用権を借りることができます(土地法5条7項)。
ここで言う「外資系企業」とは,出資金を出すのは日本企業や日本人であっても,あくまでベトナムの企業法に基づいて設立されたベトナム国内企業の意味です。 外国企業(日本法人)や外国人(日本人)が,(日本にいながら)直接,ベトナム国から土地使用権の賃借を受けることは,一切できません。そもそも,外国人や外国企業が,土地使用権の賃貸を受けるなどの「経済活動」を行う場合には,投資法により,ベトナム国内に会社を設立することが義務づけられています。投資法はそのための法律ということができます。
その意味で,外国人や外国企業によるベトナムでの経済活動そのものが国による一般的な規制下にあり,その点,原則として自由な日本と大きく異なります。
加えて,土地使用権を「国」から借りるという仕組みが取られていることからも,外国人や外国企業がベトナムで「土地使用権」を得ること自体が国の管理下にあると言えます。外国人や外国企業が自由に土地所有権を取得できる日本とは,土地制度自体の原則と例外が全く逆になっているのです。
ところで,ベトナムのこの厳しい土地規制にも抜け道があります。
それが,既に「土地使用権」の賃貸を受けているベトナム企業の株式を外国人や外国企業が取得するという方法です。これにより,外国人や外国企業がベトナム企業を通じて「土地使用権」の株式を譲受けるだけなので,ベトナム国内に会社を設立する必要はなく,外国にいながらこれを行うことができます。
この方法については,土地法に規制がなく,投資法26条に「条件付き投資分野」に該当する事業を行う会社の株式を取得する場合と,持分51%以上を取得するに至る場合に限って,当局への事前登録手続が必要という,“緩い”規制がされているのみです。
このように,外国人や外国企業であっても,既に土地使用権を有しているベトナム企業を買収(株式を取得)することは原則として自由にできます。持分51%以上を取得する場合等に事前登録が必要という投資法上の規制が存在するだけでした。
海だけでなく陸も大陸の某国と接しているベトナムでは,某国による土地浸食に対する警戒心は,日本の比ではありません。
日本では2021年6月16日,ようやく土地利用規制法が成立しました。
ベトナムでも,2021年1月1日に改正投資法が施行され,外国人や外国企業が,国境の島や町村,海岸の町村,その他国の防衛や安全に影響がある地域の土地使用権を有する企業の株式を取得する場合について,当局への事前登録が必要な事項に追加されていますので,注意が必要です。
Nhà đầu tư nước ngoài góp vốn, mua cổ phần, mua phần vốn góp của tổ chức kinh tế có Giấy chứng nhận quyền sử dụng đất tại đảo và xã, phường, thị trấn biên giới; xã, phường, thị trấn ven biển; khu vực khác có ảnh hưởng đến quốc phòng, an ninh.
コロナ禍でのベトナム進出
2020年,世界中がコロナ禍にあったにも関わらず,果敢にもベトナム進出を決めた会社が,福島県須賀川市に本社を置き,主に住宅建設を行う建設会社「三柏工業株式会社」です。
ベトナム・ホーチミン市における同社の子会社「Tokyo Homes Sanpaku Vietnam」の設立については,日本での必要書類の作成及び領事認証から,ホーチミン市計画投資局への申請書の提出及び調整まで,A.佐川法律事務所が担当いたしました。
「Tokyo Homes Sanpaku Vietnam」がベトナムで展開するのは,ベトナムではまだまだ珍しいハウスメーカー事業です。
東日本大震災後の福島県内建設業における人材難時に来日し,三柏工業を救ったベトナムのNgô Quốc Kiệt (ゴ・クォック・キエット)さんが,”Tokyo Homes Sanpaku Vietnam”の社長(Giám đốc)を務めています。三柏工業の危機を救ったキエットさんの「日本での学びを生かし,母国の発展に貢献したい」との夢をかなえようと,菊地社長はベトナム進出を決めました。
既にベトナム向けのホームページも開設されています。
2020年12月の設立手続完了,翌2021年1月からの事業開始を受け,同月23日付けの福島民報紙に,経営についてアドバイスする菊地社長の様子やベトナム進出をするに至った熱い思いなどが,記事として掲載されています。
ベトナムの上場企業に対するM&A
1 証券法は「公開会社」を規律
ベトナムには,首都ハノイにハノイ証券取引所(HNX)と,南部の商業都市ホーチミンにホーチミン証券取引所(HSX)があります。また,日本の旧“グリーンシート”に相当する未上場公開株取引市場「UPcOM」もあります。
日本の金融商品取引法に相当するベトナム証券法が適用されるのは,「公開会社(Công ty đại chúng)」であり,その定義は下記のとおりで,上場会社を含む広い概念になっています(証券法25条)。
- 株式の公募を行った株式会社
- 株式を証券取引所に上場している株式会社(これが「上場会社」にあたります。)
- 100名以上の株主(機関投資家を除く)が存在し,かつ資本金額が100億ドン(約5000万円)以上である株式会社
2 「公開会社」に対する外資出資割合規制
ベトナム証券法上は,上記の「公開会社」に外資が100%出資することも可能となっています。しかし,政令60号(60/2015/ND-CP)により,以下の場合には,公開会社に対する外資の出資割合が規制されています。
- ベトナムが加盟する条約及び投資法その他国内法令において外資出資割合に関する規制がある場合,その規制が優先する。
- 条件付投資分野に該当する事業を行う公開会社であり,かつ当該事業への外資出資割合に関する個別規制がない場合,外資出資割合の条件が49%となる。
- 上記①及び②に該当しない場合,公開会社の定款によって外資出資割合が制限されていれば,その制限が適用される。
3 「公開買付」の規制
上場会社の株式を市場外で取得する場合に,公開買付け(Take Over Bid ,TOB)が原則となることは,ベトナムも日本と同じです。しかし,ベトナムの場合,必ずしも上場会社ではない「100名以上の株主(機関投資家を除く)が存在し,かつ資本金額が100億ドン(約5000万円)以上である株式会社」の株式を市場外で取得する場合にも,TOBに拠ることが必要な点は注意が必要です。
日本の場合には持株割合が5%を超える場合にTOBに拠ることが義務づけられていますが,ベトナムの場合は,やや25%と緩和されています。
加えて,ベトナムの場合,仮に公開会社の25%以上を取得するM&Aであっても,その公開会社の株主総会の普通決議によりその取得が承認されている場合には,例外的にTOBの手続をとる必要がないとされています(証券法32条2項)。
そのため,ベトナムの上場会社(公開会社)に対するM&Aにおいては,あらかじめ株主総会の普通決議で承認を得て,TOBを行わないケースが多いと言えます。
4 スクイーズアウトの可否
TOBに反対する少数の株主から強制的に株式を買取り,100%子会社化を実現すること(スクイーズアウト)については,ベトナムでは,残存株主の株式を強制的に取得することを認める明文規定が存在しないため,現行法下では,100%子会社化のためには,残存株主から個別に株式を取得するほかないと考えられています。
ベトナムにおける一人有限責任会社(CT TNHH MTV)の機関設計
ベトナムで設立する会社には,主に有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN)と株式会社(CÔNG TY CỔ PHẦN)があり,前者については,さらに一人有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN MỘT THÀNH VIÊN,通称「CT TNHH MTV」)と二人以上有限責任会社の二種類があります。
今回は,日本企業がベトナムに子会社を設立する場合又はM&Aする場合を例に,一番多い一人有限責任会社(CT TNHH MTV)の機関設計について解説します。二人以上有限責任会社では文字通り2人以上の,株式会社においては3人以上の出資者が必要なため,日本企業が100%子会社をベトナムに設置するとなると,必然的に一人有限責任会社になるためです。
一人有限責任会社の機関には,①会社所有者(Chú sở hữu công ty),②社員総会(Hội đồng thành viên),③会長(Chủ tịch công ty),④社長(Giám đốc)及び⑤監査役(Kiểm soát viên)があります。
唯一の出資者である日本企業は,必然的に①会社所有者となります。ベトナムでも有限責任会社への出資者は「社員(thành viên)」と呼ばれていますが,出資者が一人の一人有限責任会社においては,その社員は特に「会社所有者」と呼ばれています(73条1項)。会社所有者には,全知全能とも言える広範な権利・義務が法定されています(75条,76条)。これを法人である会社所有者自身が行うことはできないので,ある自然人を「委任代表者(người đại diện theo ủy quyền)」に選任し,自己を代理させる必要があります(15条)。会社所有者である日本企業が,その委任代表者を1名とするのか,あるいは複数名(3名以上7名以下)にするかは自由ですが,その選択により,他に必要となる機関が異なってきます。
まず,委任代表者を1名とした場合(㋐)には,その1名が会社所有者が決めるべき事項を単独で決めることができるので,会議体である②社員総会は理論上も実際上も必要なくなります。そして,会社の重要事項を決める③会長と,日常業務を決定・遂行する④社長が必要となり,加えてこれらを監督する⑤監査役も必要となります(78条1項a)。
これに対し,会社所有者が委任代表者を複数名選任した場合(㋑)には,これらを構成員とする②社員総会が必要となります。逆に,重要事項は社員総会で決定されるため,③会長は不要となります。その他,④社長と⑤監査役が必須の機関となります。
以上の機関とは違う概念に「法定代表者(người đại diện theo pháp luật)」があります(13条)。法定代表者は,契約を締結したり体外的に会社を代表する権限を有する者です。企業法は,原則として,㋐の場合には会長が㋑の場合には社員総会の長が法定代表者になる旨を規定していますが,定款で別な規定をすることができ(78条2項),多くの会社では,日常的な業務を遂行する社長(や副社長)に代表権も付与するため,定款により,社長を法定代表者としています。
ベトナム上場会社の株主総会(Đại hội đồng cổ đông)
1 開催時期・場所
年1回の定時株主総会と,その他の臨時株主総会がある点は日本と同じです(企業法139条1項)。
定時株主総会の開催時期については,事業年度終了日から4ヶ月以内とされており(企業法139条2項),3ヶ月以内とされている日本と異なります。そのため,事業年度の終了(決算日)が12月末の会社が多いベトナムでは,毎年4月下旬に定時株主総会の開催日が集中します。
株主総会の開催場所については,「ベトナム国内」という法律上の制限があるのみで(企業法139条1項),必ずしも本店所在地又はその周辺で行う必要がありません。
2 開催方法
企業法147条1項及び149条は,株主総会について,日本よりも一歩進めた形で,定時又は臨時を問わず会議体を開催せずに,書面でのみ決議を採択する方法も認めています。ただし,上場会社では,コーポレートガバナンスに関する政令(71/2017/NĐ-CP)8条4項により,定時株主総会においてこの書面で決議を採択する方法はできないとされています。
3 日本で採用されている「基準日」に関して
ベトナムには予め定款で定める「基準日」という概念はなく,都度,取締役会が決議をもって株主名簿の「最終登録日(Ngày đăng ký cuối cùng)」を決定し,同日までにベトナム証券保管振替機構に登録が完了した株式(株主)に対し,株主総会への参加資格を付与する形式が取られています。
4 株主総会の定足数及び決議要件
(1) 定足数
発行済株式総数の50%超の出席(企業法145条1項)
(2) 決議要件
【普通決議】
出席株主が保有する株式総数の50%超(企業法148条2項,)
【特別決議】
出席株主が保有する株式総数の65%以上(企業法148条1項)
5 【特別決議】事項
①新株発行(企業法148条1項a号)
②事業分野又は領域の変更(企業法148条1項b号)
③「会社の管理,統治及び検査の組織機構」の変更(企業法148条1項c号)
④直近の年次財務報告上の総資産額の35%を超える額の投資又は資産の売却の決定(企業法148条1項d号)
※35%を超えた額でも一般的な取引は取締役会決議事項
⑤会社の分割,新設・吸収合併及び組織変更(企業法148条1項đ号,)
⑥会社の解散又は整理(企業法144条1項đ号)
6 株主総会議事録について
株主総会議事録は,総会終了日から15日以内に株主全員に送付する必要がありますが,Webサイト上の公開で代替できます(企業法150条5項)。そのため,殆どの上場会社が自社Webサイトで株主総会議事録を公開しています。
ベトナム上場会社の取締役会(Hội đồng Quản trị)
1 取締役会の権限等
取締役会は,株主総会の権限に属さない事項について,意思決定をする機関です(企業法153条1項)。
取締役会の決議事項は,企業法153条2項に列挙されているほか同法にて規定する事項や,定款で規定した事項になります。
2 取締役の員数及び任期
取締役会を構成する取締役(Thành viên Hội đồng quản trị)は3人以上11人以下で,具体的には定款で決められます(企業法154条1項)。
各取締役の任期は5年以内です。ただし,際限なく再任することが可能です(企業法154条2項)。
3 取締役会の主席(Chủ tịch Hội đồng quản trị)
取締役会は,取締役の中から「主席」を選任(解任)します(企業法156条1項)。
取締役会の主席が,その会社の総社長又は社長を兼任することについては,非上場会社では規制はありませんが,上場会社では,ガバナンス強化の観点から,この兼任が禁止されています(企業法156条2項)。
取締役会の「主席」の任務は,主に取締役会の議事の運営です(企業法156条3項)。
4 開催時期
取締役会については,少なくとも四半期に1回開催することが義務付けられており(企業法157条2項),この最低開催数については,上場会社でも同様で加重されてはおりません(2017年コーポレートガバナンスコードに関する政令16条1項)。
5 招集通知
取締役会の主席は,定款に異なる定めがない限り,会日の3営業日前までに各取締役に招集通知を送付しなければなりません(企業法157条6項)。
6 監査役について
監査役については,日本と異なり,取締役へ出席する義務を負ってはおらず,必要があると認めた場合に出席できる権限を有することになっています(企業法157条7項)。出席した場合であっても議決権を有しないことは日本と同様です(企業法157条7項)。
7 定足数
取締役会が開催されるためには,原則として取締役総数の4分の3の出席が必要です(企業法157条8項)。そのため,取締役の員数がミニマムの3人の会社においては,全員出席が必須になります。逆に誰か一人でも欠けると,取締役会は開催できず,会社としての意思決定等に支障が生じる可能性もあります。
8 決議要件
定款に別段の定めがある場合を除き,出席した取締役の多数決により決議されます(企業法157条12項)。
なお,可否同数の場合には,取締役会の主席の票が取締役会の決議となります(企業法157条12項)。
ベトナム上場会社における「取締役」と業務執行者
1 取締役の員数とその構成
取締役(Thành viên Hội đồng quản trị)の員数について,企業法では3人以上11人以下とされていますが(企業法150条1項),この範囲で定款で員数を特定することも可能です。
2 「非業務執行取締役」及び「独立取締役」に関して
ベトナムでも上場会社については,日本と同様,取締役会を構成する取締役の一定数が「非業務執行取締役」及び「独立取締役」であることが要求されています。
(1) 「非業務執行取締役」について
上場会社には,2017年コーポレートガバナンスコードに関する政令(以下「CG政令」とします。)が適用されますが,CG政令13条2項は,上場会社について,取締役の総数の3分の1は,会社の具体的な業務に従事しないという意味の「非業務執行取締役(Thành viên Hội đồng quản trị không điều hành)」であることを求めています。
(2) 「独立取締役」について
会社や株主から独立しているという意味で「独立取締役(Thành viên Hội đồng quản trị độc lập)」は,企業法151条2項が要件を規定しており,例えば「直接または間接的に会社の株式を1%以上保有していない者であること」等が必要とされています。CG政令13条5項は,上場会社について,取締役の員数の3分の1は「独立取締役」であることを要求しています。
3 「取締役会の主席」について
日本にはない機関として,ベトナムには「取締役会の主席(Chủ tịch Hội đồng quản trị)」があり,後述の社長など業務執行者とは別に,取締役会で選任されます(企業法149条2項i号)。
取締役会の主席は,取締役の一人として取締役会の決議に加わるほか,取締役会の会議を仕切る議長となり(企業法152条),合わせて株主総会の主座(議長)にもなります(企業法142条2項a号)。もっとも,「主席」や議長と言っても,それ以上の権限を持つものではありませんが,取締役会の主席の唯一の権限として,取締役会の議決において賛否が等しい場合に,主席の票が取締役会の決議となる旨が規定されています(企業法153条9項)。そのため,仮に日越合弁会社でそれぞれ同数の取締役を就任させる場合には,取締役会の主席をどちらが獲得するかが重要になります。
4 業務執行者について
意思決定機関としての取締役会が決議した事項や,会社の日常業務を執行及び管理する職務をもつ者として,社長(Tổng giám đốc),副社長(Phó tổng giám đốc)あるいは会計責任者(Kế toán trưởng)などの業務執行者を,取締役会が選任することとしています(企業法157条)。建前としては,業務の意思決定と執行を明確に区別するもので,むしろ日本よりもアメリカに近い制度と言えます。
このようにベトナムでは必ずしも「社長」=「取締役会のトップ(主席)」ではありません。企業法は取締役会の会長が社長を兼任することを認めていますが(企業法152条1項),CG政令12条2項はこの兼任を禁じているため,上場会社では必ず両役職には違う人物が就かなければなりません。
ベトナム上場会社における配当(cổ tức)
1 配当の対象となる財産
ベトナム企業法135条3項は,「配当は,現金,会社の株式又は会社の定款が規定するその他の財産で支払うことができる。」と規定しています。
ベトナムでも現金による配当が原則ですが,(自己株式ではなく)新たに新株を発行して,この株式を配当として既存の株主に交付することが認められています。
実際,少なくない上場企業でも「株式による配当」が行われており,市場金利が高く現金での配当に魅力が乏しく,他方で経済成長とともに株価も上昇傾向にあるベトナムでは,株主も「株式による配当」を歓迎する傾向があります。なお,現金で支払う場合は,ベトナムドンによらなければならないとされており(企業法135条3項),このルールは上場会社にも適用されます。
ところで,この「配当」に類似していますが,ベトナムでは,留保していた利益等を財源として(そのため新たに金銭の払込みがない。),既存株主に対しその持分割合に応じて新株を発行(結果的に資本金額は増える。)することも可能とされています(2015年証券法施行政令(60/2015/NĐ-CP)25条)。
いずれにおいても,既存の株主にその持分割合に応じて新株が発行・割当されるので,既存株主の持分割合が低下することはありません。
2 「基準日」に関して
この配当支払いについて,定時株主総会の開催と同様にベトナムには「基準日」という制度がありません。
そのため,上場会社では,取締役会が「最終登録日(Ngày đăng ký cuối cùng)」を決定し,同日までにベトナム証券保管振替機構に登録が完了した株式(株主)に対し,配当が支払われることになります。
3 支払時期
配当の支払時期について,日本では法律上の規制はなく,上場会社では,決算日とされることがほとんどの「権利確定日(基準日)」から2から3ヶ月後に支払われるのが一般的です。
これに対し,ベトナムでは,そもそも「基準日」という制度がないこともあり,「定時株主総会が終了した日」が基準となり,定時総会終了日から6ヶ月以内に支払うこととされています(企業法135条4項)。
ベトナム上場会社の情報開示制度
1 上場会社に適用される情報開示(công bố thông tin)制度
ベトナムの証券市場に上場している会社(以下「上場会社」)は,その株主等に対する情報開示について,ベトナム財務省が制定する「証券市場における情報開示に関する通達(155/2015/TT-BTC)」に準拠することが義務づけられています(以下「情報開示通達」)。
ベトナムの上場会社は,情報開示通達により,何よりも先に情報開示のためのWebサイトの開設が義務付けられています(情報開示通達5条2項a号)。
情報開示通達その他に基づき開示が必要な情報は,基本的にこのWebサイト上で開示されています。余談ですが,このような情報開示制度の実施は,デューデリジェンスの際の資料・情報収集にも便利です。
以下,情報開示通達により開示が求めれる代表的な事項を解説します。
2 年次財務報告(báo cáo tài chính năm)の開示
会社は,事業年度ごとに「年次財務報告(báo cáo tài chính năm)」を作成し,かつ監査役会の監査と,外部の監査法人による会計監査を受けた上で,承認を得るべく,これを定時株主総会に上程します(企業法170条等)。
年次財務報告には,貸借対照表,損益計算書,キャッシュフロー計算書及び財務諸表に関する注記が含まれます。
情報開示通達は,会計監査を受けた年次財務報告について,定時株主総会で承認を得るだけでなく,原則として事業年度が終了した日から90日以内に,ただし連結の年次財務報告書を作成する必要があり90日以内に開示できない場合には例外的に100日以内に,自社のWebサイト上で開示することを義務付けています(情報開示通達8条1項c号)。
3 半期・四半期財務報告について
上記年次財務報告に加え,上場会社は,半期財務報告(báo cáo tài chính bán niên)及び四半期財務報告(báo cáo tài chính quý)の作成と,Webサイトでの開示が義務付けられています。
半期財務報告については,半期終了日から原則45日(連結の場合には例外的に60日)以内にWebサイトで開示する必要があります(情報開示通達11条2項)。
四半期財務報告書については,四半期終了日から原則20日(連結の場合には例外的に30日)以内にWebサイトで開示する必要があります(情報開示通達11条3項)。四半期財務報告書の開示ルールは,「45日以内」とされている日本より厳しいと言えます。
4 年次報告・Annual report(báo cáo thường niên)について
情報開示通達は,上場会社に対し,年間の事業活動の報告や年次財務報告などを内容とした「年次報告・Annual report(báo cáo thường niên)」を作成し,事業年度が終了した日から120日以内にWebサイト上で開示することを義務づけています(情報開示通達8条2項)。日本では,いわゆるアンニュアルレポート作成は上場会社でも任意ですが,ベトナムでは義務となっています。
5 コーポレート・ガバナンス報告(báo cáo tình hình quản trị công ty)について
ベトナムの上場会社も,日本と同様に,上期と通年で,いわゆるコーポレート・ガバナンス報告(báo cáo tình hình quản trị công ty)を作成し,それぞれ期末から30日以内に開示することが義務付けられています(情報開示通達11条6項)。