Q ベトナムにはどのような種類の会社がありますか?
日本で会社の設立,組織及び管理について定めた法律は“会社法”ですが,ベトナムでそれに相当するのは,2014年に改正施行された「企業法(LUẬT Doanh nghiệp)(68/2014/QH13)」になります。
ベトナムの企業法に基づく「会社」には,主に「有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN)」と「株式会社(CÔNG TY CỔ PHẦN)」があります。ちなみに「CÔNG TY」が会社という意味になります。
現在の日本では,かつて存在した有限会社は会社法施行とともに廃止,株式会社に一本化され,「株式会社」が一般的な会社の形になっています。
しかし,ベトナムでは,「株式会社」の設立には,出資者(株主)が3人以上必要で,かつ設立に時間と費用がかかるため,ベトナムでの株式上場でも目指す場合でもない限り,日本企業が会社を設立する場合,「有限責任会社」を設立するのが一般的です。
Q ベトナムの有限責任会社にはどのような種類がありますか?
有限責任会社には,「一人有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN MỘT THÀNH VIÊN)」と,「二人以上有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN HAI THÀNH VIÊN TRỞ LÊN)」の二種類があります。
「一人」や「二人以上」というのは,出資者の数に基づくものです。 ベトナム企業との合弁会社を設立しようとなると,出資者は日本企業とベトナム企業の二人となり,必然的に「二人以上有限責任会社」となります。日本企業や日本人が単独で出資する場合,「一人有限責任会社」を設立することになります。
「有限会社」の社員も「株式会社」の株主も,日本の会社の株主と同じで,出資者の責任は出資をした財産の限度という意味での「間接有限責任」であり,出資者が会社の負債について返済の責任を負うことはありません。
その基本的な点で同じであるため,ベトナムの会社も,日本の会社も,基本的には同じ性格を持っていると言うことができます。
Q 日本企業はベトナムで自由に会社を設立できるのでしょうか?
日本のような“外国企業・外国人”がベトナムで会社を設立する場合,企業法に先立ち適用を受けるのが,2014年に新法が施行された「投資法:LUẬT Đầu tư(45/2013/QH13)」です。
日本では外資も内資も区別はなく,会社法に基づいて会社を設立できます。特定の業種を除いて,外資の参入に規制はありません。100%外資の会社であっても,会社法に基づいて,日本人と同じ手続で設立し,登記することができます。会社法は,「外国会社」というカテゴリーを設けていますが(会社法2条2号),これは外国の法律に基づいて設立された会社などで,日本の会社法に基づいて設立された会社とは異なります。日本の会社法で設立されれば,例え100%外資であっても,日本の株式会社と全く同じ「株式会社」です。
これに対し,ベトナムでは,いわゆる“外資”が会社を設立する,“外資”が行える事業,設立する会社を設立すること,すなわち会社設立のために出資(資本金を拠出)することは「投資」として扱われ,その上で,日本人のような外国人や外国企業は「外国投資家」に位置付けられ(投資法3条14項),投資法による規制を受けることになります。
これが日本にはない,ベトナムの“外資規制”の一つです。
「外国投資家」がベトナムで会社を設立しようとすると,当局から「投資登録証明書(Giấy chứng nhận đăng ký đầu tư, Investment Registration Certificate:IRC)」を取得しなければなりません。
IRCを発行する機関は,「投資」のレベル・内容によって,国会,政府首相,省レベル人民委員会,その他に分かれますが,通常の場合は「その他」になり,比較的手続は簡易になっています。IRCの申請は,いずれも管轄の「計画投資局(Department of Planning and Investment:DPI)」に行うことになります。
ホーチミン市の計画投資局
Q 投資登録証明書(IRC)の申請方法を教えて下さい。
「投資登録証明書(Investment Registration Certificate:IRC)」が,その「投資」内容での会社設立申請時の必要書類とされているために(企業法22条等),会社の設立手続に先立ち,まずIRCを取得する必要があります。
端的に言えば,会社設立に先立ち,その「投資」内容で当局の審査を受けることになるのです。 そうは言っても,基本的には,当局の面接や審問などを受けるものではなく,申請書を作成し,必要な書類を合わせて提出するだけです。
下記のような投資プロジェクトの実施申請書(案件によって「投資プロジェクトの提案書」)を作成し,IRCの発給を申請します(投資法33条2項a号)。
投資プロジェクトの実施申請書(1枚目)
Q 実施申請書の他にIRC申請に必要な書類を教えて下さい。
投資プロジェクトの実施申請書に加え,一般に下記のような書類を計画投資局(DPI)に提出し,IRCの発給申請を行う必要があります(投資法33条2項a号)。
主な添付書類
・パスポートの写し(個人の場合)
・現在事項全部証明書(法人の場合)
・出資者の直近2期分の決算報告書(法人の場合)
・金融機関の残高証明書(個人の場合)
・オフィスの賃貸借契約書
Q オフィスの賃貸借契約は会社設立前に行う必要があるのですか?
IRCを取得する,すなわちベトナムで会社を設立するために,まず行わなければならないのは,実はオフィス事務所の確保です。
それは,投資法上,IRCの発給を申請するにあたり,事業を行う事務所の賃貸借契約書の添付が必要とされているためです(投資法37条2項a号,33条1項d号)。 そのため,ベトナム進出を決意したら,まずオフィス探しを開始しなければなりません。
A.佐川法律事務所では,現地の不動産会社とパートナーシップを構築していますので,現地の職場環境に関する豊富な情報を提供しつつ,クライアントに最適なオフィス物件を紹介できることに加え,取交される賃貸借契約書についても,法律の専門家として精査しております。
賃貸借契約書
Q 投資登録証明書(IRC)はどのようなものですか?
計画投資局(DPI)は,必要な発給申請書類を受領した場合には,受領した日から15日以内に,下記のようなIRCを発給することとされています(投資法37条2項b号)。
投資登録証明書(IRC)
Q 企業法に基づく会社設立の手続を教えて下さい。
IRCの発給を受けたら,いよいよ企業法に基づく会社の設立手続となります。 具体的には,下記のような企業登録申請書を作成し,計画投資局(DPI)に属する企業登録室に提出し,「企業登録証明書(Giấy chứng nhận đăng ký doanh nghiệp,Enterprise Registration Certificate :ERC)の発給を申請します(企業法27条)。
企業登録申請書
Q 企業登録申請書の他にERC 申請に必要な書類を教えて下さい。
設立する会社の種類によって異なりますが,一般的な有限責任会社の場合,企業登録申請書とともに,一般に下記のような書類を企業登録室に提出する必要があります(企業法22条)。
・定款
・社員一覧
・パスポートの写し(個人の場合)
・現在事項全部証明書(法人の場合)
・投資登録証明書(IRC)の写し
Q 企業登録証明書(ERC)はどのようなものですか?
企業登録室は,申請書類受領後3営業日以内に下記のようなERCを発給することとされています(企業法27条)。
企業登録証明書(ERC)
Q 資本金の額についてベトナムでは規制があるのでしょうか?
企業法には,最低資本金額に関する規定はありません。その点,現在の日本の会社法と同じです。
このように法律上は1ドンでも良いことになっていますが,実務上は,IRCを取得するにあたり,当局の指導で最低1万米ドル程度の資本金を要求されるのが一般的です。 もっとも,例えば不動産事業を営むには,原則として200億ドン(約1億円)以上の資本金が必要とされるなど(不動産事業法10条),他の法令で最低資本金額が定められている場合もあり,また会社が目的とする事業により当局が一定の資本金額をIRC発給の条件とすることとなっており,資本金額は,当局の裁量次第とも言うことができます。
Q 日本人でもベトナムの会社の代表者に就任できますか?
日本でもベトナムでも,会社は法人であり,その意思決定及び対外的行為には,「代表者」が必要になります。
日本の株式会社の“代表取締役”に相当する者は,ベトナムでは「法定代表者(Người đại diện theo pháp luật)」と呼ばれています(企業法13条)。
ベトナムの企業法は,厄介な規制の一つとして,法定代表者の少なくとも1人が,ベトナムへの居住を義務付けていることがあります(企業法13条3項)。
もっとも,日本でも,会社法には規定がないものの,従前,代表取締役のうち,最低1人は日本に住所を有していなければ,設立登記を受付けないとの運用がなされていました。そのため,代表取締役になるべき者が外国に居住している場合には,その者1人を代表取締役とすることはできず,日本に居住する者をさらに代表取締役として追加する必要がありました。 しかし,このような運用が外国からの投資の阻害要因になるのは明らかで,批判があったところです。
そこで,平成27年3月になってようやく,この運用が改められ,代表取締役の全員が海外に居住していても,日本において会社の設立登記を申請することができるようになり,外国に居住する日本人・外国人1人を代表取締役とする会社の設立が認められるようになりました(平成27年3月16日民商第29号通知)。
ベトナムにこのような規制が存在し,しかも法律で明記されているのは,他の東南アジア諸国と比較してもやむを得ないところではありますが,そのために,原則として,法定代表者である日本人を新たにベトナムへ住まわせるか,ベトナム在住の日本人かベトナム人を法定代表者とする必要があります。
Q IRCとERC申請に必要な書類は日本でどのようにして準備するのですか?
会社設立にあたり,申請書以外の書類の提出が必要なのは,日本もベトナムも同じです。 必要となる書類は,会社設立の出資者が個人か会社か,また「投資プロジェクト」の内容などにより変わります。例えば,個人が出資する場合,パスポートの写し(コピー)の提出が必須になります。しかし,単にコピーを提出すれば済むものではありません。
パスポートそのものは外務省発行の「公文書」なのですが,そのものを提出するわけにはいかないので,「コピー」を提出することになります。日本だとコピーを提出すればそれで済みそうですが,パスポートのコピーは,公文書ではなく,「私文書」になってしまいます。また,個人が出資する場合の「預金残高証明書」や,会社が出資する場合に要求される「決算報告書」は,いずれも「私文書」になります。
この「私文書」を,ベトナムでの会社設立のために,担当部署の計画投資局に提出するためには,まず,①日本の公証役場の公証人の「認証」を受けます。その上で,次に法務局で「公証人押印証明」をもらう必要があります。これは,法務局長が,認証の付与が在職中の公証人によりその権限に基づいてされたものであり,かつ,その押印は真実のものである旨の証明を付与するものです。この「公証人押印証明」をもって,パスポートのコピーが「公文書」になります。さらに,外務省にて「公印確認」という外務省の証明を得る必要があります。
担当の役所が3か所にも及び,それぞれ出向かなければならず,かなり面倒なのですが,東京都,神奈川県及び大阪府の公証役場に限っては,「認証」,「公証人押印証明」及び「公印確認」までの手続を,一括して行う「ワンストップサービス」が行われており,出向くのが公証役場だけで足り,法務局や外務省には行く必要がなくなっています。
ベトナムでの会社設立のための資料作りは,外務省の「公印確認」で終了ではありません。 これは,ベトナムの外国に対する警戒の表れなのか,ベトナムは,未だ「外国公文書の認証を不要とする条約(ハーグ条約)」を締結していません。もしハーグ条約を締結していれば,外務省の証明(アポスティーユ)をもって,外国機関に提出できます。しかし,ベトナムのようなハーグ条約を締結していない国に,“公文書”を提出するためには,日本にあるベトナム大使館・領事館で,その「認証(領事認証)」を受ける必要があります。さらに,これをベトナム語に翻訳しなければなりません。ベトナム語への翻訳は,大使館・領事館で行ってくれるのですが,その翻訳料は1枚あたり5000円もするので,かなりの量の資料の翻訳を大使館に依頼すると,意外に大きな金額になってしまうのです。
Q IRCとERCの申請は別々に行い,それぞれ書類を準備しなければならないのですか?
IRCが,ERCの発給を申請する際の必要書類であるため,手続の流れとしては,IRCを取得した後に,ERCの発給を申請することになり,二段階の手続を取る必要があります。
これが原則ですが,それぞれを管轄する役所で手続を取る必要があり,そのため,必要書類も重なるものも多く,日本国内で準備するにも意外に時間と費用もかかることから,外国投資家から批判があがっていました。 そのため,これまでの二段階の手続のほか,IRCとERCの発給の申請を同時に一カ所の「計画投資局(Department of Planning and Investment:DPI)」にて行う手続を選択できる旨の新しい通達(02/2017/TT-BKHĐT)が出され,2017年6月15日からこの新しい運用が開始されました。
この新しい通達による運用については,その運用の不透明さから慎重論がありましたが,A.佐川法律事務所では,現地法人「SAGAWA CONSULTING FIRM Co. Ltd.」を,この新しい運用のもと設立しており,今後クライアントのベトナムでの会社設立に際しても,その費用や時間の節約のために,この運用を選択したいと考えています。
Q 会社設立後に行わなければならない手続にはどのようなものがありますか?
当局より「企業登録証明書(Giấy chứng nhận đăng ký doanh nghiệp,Enterprise Registration Certificate ,ERC)」が発給されると,ベトナムにおいて会社が設立されたことになります。
もっとも,ベトナムの企業法は,会社設立後に事業活動を行うための次のような手続を取ることを義務づけています。
①会社印鑑の作成及び届出(企業法44条)
②企業登録内容の公示(企業法33条)
③銀行口座の開設
④その他
Q ベトナムでも会社の印鑑が必要なのですか?
ベトナムは,日本と同じかそれ以上に印鑑(スタンプ)が重要性をもっている国で,会社設立後,印鑑(スタンプ)を作成し,当局に届出する必要があります。
日本では,会社設立登記の申請と同時に,印鑑届出書をもって会社の“実印”を届出ることになっています。 これに対し,ベトナムでは,ERCが発給された後に,少なくとも社名とERCに記載された「企業コード」を刻印した印鑑を作成し,その印影を計画投資局(Department of Planning and Investment:DPI)に提出・届出する必要があります(企業法44条)。
なお,会社には,「企業コード」という,日本のマイナンバー類似の番号が付与されます。 「企業コード」は,国家企業登記情報システムにより付与される番号列で,企業の設立時に付与され,ERCに記載されます。それぞれの企業は,唯一の企業コードを有し,他の企業で同じコードが使用されることはありません。租税義務の履行及び行政手続その他権利行使・義務の際に使用されます(企業法30条)。
スタンプ
Q 企業登録内容の公示とはどのようなものですか?
ERCの発給後,30日以内に,国家企業登録情報サイト(https://dangkykinhdoanh.gov.vn/)で公示するため,必要事項を「計画投資局(Department of Planning and Investment:DPI)」に申請しなければなりません(企業法33条)。 これにより,ERCの内容(企業名,企業コード,住所,法定代表者の情報,資本金額,出資者の情報)などが公示され,国家企業登録情報サイトを通じで誰でも閲覧できるようになっています。
国家企業登録情報サイト
Q 会社名義の銀行口座はいつ開設する必要がありますか?
日本では,会社設立時の資本金の払い込みは,会社設立前に,発起人名義の銀行口座に払込み,その通帳のコピーを払込証明書として,設立登記申請の際に法務局に提出します。
これに対し,ベトナムでは,資本金の払い込みは,会社名義の銀行口座に行うこととされ,必然それはERC発給後になります。企業法は,ERCが発給された日から90日以内に資本金を払い込む必要がある旨を定めていますが(企業法48条2項等),その前提として,先に作成された会社名義の印鑑を使って,会社名義の銀行口座を開設し,計画投資局(Department of Planning and Investment:DPI)に届出る必要があります。
Q 会社設立後に必要なその他の手続を教えて下さい。
初年度のライセンス税(事業税)の支払い,強制保険の申告・納付など,税務手続と社会保険手続が必要となりますが,A.佐川法律事務所では,日本語対応が可能な現地の会計事務所を紹介しています。