ベトナム進出支援

ベトナムでの不動産投資 よくあるご質問

Q 日本企業によるベトナムへの不動産投資の事例を教えて下さい。

1.野村不動産株式会社による「Sun Wah Tower(サンワータワー)」買収の事例

野村不動産株式会社は,平成30年1月,ホーチミン市の“目抜き通り”グエン・フエ通り(Đường Nguyễn Huệ)に建つ「Sun Wah Tower(サンワータワー)」を所有する会社の株式を100%保有していた香港財閥の新華集団(Sun Wah Group)から,24%を取得し,同社としては初となる東南アジアでのオフィスビル賃貸事業に進出しています。

Sun Wah Tower(サンワータワー)

2.ダイビル株式会社による「Saigon Tower(サイゴンタワー)」買収の事例

ダイビル株式会社(以下「ダイビル」)は,平成24年1月,ホーチミン市1区,フランス領事館やアメリカ領事館近くの一等地に立つ「Saigon Tower(サイゴンタワー)」を所有する「Saigon Tower Co., Ltd.」の株式100%を保有する香港系企業「Jent owner Limited」の株式100%を,対価52億9800万円で取得するという方法で,ベトナムでの不動産賃貸事業に進出しています。

「サイゴンタワー」の所有者が「Saigon Tower Co., Ltd.」であることには変わらず,「Saigon Tower Co., Ltd.」の株式を100%保有する「Jent owner Limited」の株式の100%を,新たに取得するという方法で,「Saigon Tower Co., Ltd.」自体は「外資系企業」ですが,ベトナムにて不動産賃貸事業を営んでいます。

さらに,ダイビルは,平成26年7月,英領ヴァージン諸島に設立した100%子会社「White Lotus Properties Limited」に60億9000万円を追加出資し,同社はこれを対価として,ハノイ「コーナーストーン・ビルディング」を保有・運営する「VIBANK-NGT Company Limited」の100%親会社である「Vietnam International Commercial Stock Bank(VIB)」から株式の99%を取得するに至っています。

Saigon Tower(サイゴンタワー)

3.株式会社はせがわによる「ZEN PLAZA」建設の事例

古くは,“お仏壇”の株式会社はせがわが,平成7年2月,現地のサイゴンコープ社と出資割合60%で合弁会社(HASE-SAICOOP JOINT VENTURE COMPANY)を設立し,オフィスビルの建設を開始し,平成11年8月,オフィスビルとファッションデパートを兼ねた「Nhat Nam Plaza(平成15年に現在の「ZEN PLAZA」に改称)」ビルを,ホーチミンの“ファッションストリート”グエン・チャイ通り(Đường Nguyễn Trãi)にオープン,オフィス賃貸事業と,外資では初となる百貨店事業を開始しました。

平成14年8月,サイゴンコープ社との合弁契約を解消し,同社が保有する株式全てを買取り,100%子会社化するとともに「HASEGAWAVIETNAM Co., Ltd.」と改称しています。

平成16年3月,その保有する株式の全てを香港法人に譲渡してベトナム事業より撤退,同年この株式100%を,“やずや”が取得し,同グループ会社として現在に至っています。

ZEN PLAZA

Q ベトナムにおける「土地」に対する外資規制の内容を教えて下さい。

社会主義国であるベトナムでは,土地は全て国有です(土地法4条)。 ベトナム人・ベトナム企業であれ,外国人・外国企業であれ,土地については,直接・間接ありますが,国から「土地使用権」の割当を受け,または賃借することになります。 いわゆる外資系企業も,国から土地使用権の割当等を受け,「土地使用者」となることができます(土地法5条7項)。

ここで言う「外資系企業」とは,出資金を出すのは日本企業や日本人であっても,ベトナムの企業法に基づいて設立されたベトナム国内企業です。 外国企業(日本法人)や外国人(日本人)が,直接,ベトナム国から土地使用権の割当等を受けることは,一切できません。

さらに,ベトナムの土地法は,外資系企業については,「販売又は販売・賃貸併用の住宅開発プロジェクト」の場合に限って「土地使用権の割当」を受けることを認めているに過ぎません(土地法55条3項)。また,国からの「土地使用権の賃借」についても,一定の場合に限定されています(同法56条1項等)。 また,土地使用権者から土地使用権を「譲受」けること,「賃借」すること及び「転借」することは,いずれも土地法に明文規定がなく,これを行うことはできないと解されています。

このように,「土地」については外資系企業に開かれているとは言い難い状況にあり,日本で行われている土地の転売のように,土地使用権のみを取引の対象とすることは,ベトナムではできません。

Q ベトナムにおける「建物」に対する外資規制の内容を教えて下さい。

土地と異なり,「建物」については,ベトナムでも私有化が認められており,外国人・外国企業でもこれを所有し,登記することができます。  

そのため,外資系企業が行うベトナム不動産投資は,「建物」が対象となります。

なお,不動産事業を営むためには,原則として200億ドン(約1億円)以上の資本金が必要とされています(不動産事業法10条)。もっとも,例外もあり,その詳細は,政令76号(76/2015/ND-CP)5条に規定されていますが,対象の不動産プロジェクトが200億ドン未満の小規模なものに限られています。

Q 不動産事業法上,外資系企業が適法に行える不動産事業を教えて下さい。

「建物」に関する不動産事業についても,外資系企業がベトナムで行える事業は,不動産事業法に限定的に列挙されており(つまり規制が強い),以下の5事業に限られています。

 

①転貸のために「住宅・建物」を賃借する事業 (不動産事業法11条1項b号)

②国から賃貸された土地について,「住宅」を建設する事業 (不動産事業法11条1項d号)。

③売却や賃貸するための「住宅・建物」を建設するため,不動産プロジェクトの全部又は一部を譲受ける事業(11条3項a号,1項h号)

④国から割当られた土地について,売却や賃貸するための「住宅」を建設する事業(11条3項a号,2項b号)

⑤工業団地,産業ストラクター,輸出加工区及びハイテクパークにおいて,国から賃借する土地について,土地使用目的に従った事業を営むための「住宅・建物」を建設する事業(11条3項b号)

 

もっとも,②~④は,住宅であれ建物であれ,「建設」する事業を前提にしており,一般的な不動産「投資」という趣旨とは異なります。前に紹介した「株式会社はせがわ」の事例は,法制度が異なる時代のため正確ではありませんが,外資系企業である「HASE-SAICOOP JOINT VENTURE COMPANY」が自ら建物を建設して賃貸等に供しているため,これらに該当しうるものと言えます。

「不動産投資」という観点から可能性があるのは①であり,これは,テナントに貸すために,オーナーから借りる事業で,いわゆるサブリース事業です。

Q 外資系企業が転売・賃貸を目的としてビルを取得することは可能ですか?

A.佐川法律事務所で相談を受けることが多い案件,つまり日本企業の多くが関心をもっているのが,日本では最も一般的な【転売又は賃貸のための住宅・建物の取得(不動産事業法11条1項a)】です。 転売して,または賃貸して収益を上げるためのビルの購入は,日本の不動産投資では一般的なものです。

しかし,残念ながら,【転売又は賃貸のための住宅・建物の取得(不動産事業法11条1項a)】は,100%ベトナム企業にのみ認められており,不動産事業法により,外資系企業には禁止されています。つまり,“一番美味しいところ”は,外資系企業には与えず,100%ベトナム企業のために残していると言うことができます。

Q 外資系企業は建物を賃貸することはできないのでしょうか?

外資系企業は,これから高まることが期待されているベトナムでのオフィス需要を,指をくわえて見ているだけかと言うと,必ずしもそうとは限りません。 実務では,外資系企業に認められていない転売・賃貸を目的とした建物の「取得」の代用手法が考案され,実施されています。 それが,建物の所有権(及び土地利用権)を保有する会社の「株式」を取得して子会社化する方法,すなわち「M&Aによる不動産投資」です。

Q 【M&Aによる不動産投資】とはどのような手法ですか?  

既存の商業ビルを「取得」し,転売や賃貸により収益を上げるという日本にて一般的な不動産投資は,ベトナムでは外資系企業には認められていません。 しかし,これと同じような効果を生む,M&Aによる不動産投資が,実務では広く行われています。

前述の野村不動産の事例もダイビルの事例も,取得したのは「Sun Wah Tower(サンワータワー)」や「Saigon Tower(サイゴンタワー)」の所有権ではなく,これらビルを所有する会社の株式であり,M&Aによる不動産投資なのです。

ベトナム企業の株式の譲受については,企業法及び投資法にこれを制限する規定はなく,原則として自由に譲渡することができ,これを日本企業が100%取得することも可能です。また,現地法人を設立することなく,日本企業が日本にいながらベトナム企業の株式を取得することで,「不動産投資」を行うことができるのです。  

Q 【M&Aによる不動産投資】の土地法との関係について教えて下さい。

ベトナムの土地法は,外資系企業は,「販売又は販売・賃貸併用の住宅開発プロジェクト」の場合に限って国から「土地使用権の割当」を受けることができます(土地法55条3項)。また,国からの「土地使用権の賃借」についても,一定の場合に限定されています(同法56条1項等)。

このような土地法との関係で,外資系企業が土地利用権を有する形となる,株式取得の方法が許容されるかは,旧土地法のもとでは明らかではありませんでした。 しかし,2014年7月1日に改正施行された土地法は,「外資系企業」が,土地使用権(農地・森林を除く)を保有するベトナム企業の株式を譲受けることができることを前提に(土地法の施行細則を定める政令No. 43/2014/ND-CPに明文があります。),土地使用権を保有するベトナム企業の株式を外国企業が購入することにより,当該ベトナム企業が「外資系企業」となった場合において,その「外資系企業」が保有する土地使用権の内容を規定しており,土地法は,100%ベトナム企業が買収により外資系企業となっても,引き続きその土地を使用する権利を保有することを認めています(土地法183条4項)。

なお,「住宅」の場合には,当該部屋の所有権のみならず,建物が建設されている土地の土地使用権の一部(当該部屋の面積が建物全部屋の合計面積に占める割合の部分)も,部屋の所有権と同時に取得することになる旨が,政令43号【43/2014/ND-CP】49条3項に明文化されています。

Q 【M&Aによる不動産投資】の不動産事業法との関係について教えて下さい。

買収(M&A)後の企業や合弁会社も,不動産事業法11条3項が規定する「外資系企業(Doanh nghiệp có vốn đầu tư nước ngoài)」に該当するため,その所有する建物を第三者に賃貸することは,外資系企業にはマスターリース(不動産事業法11条1項b)のみを認めた不動産経営法11条3項に違反しないか議論があるところで,禁止も許諾も明文がない,ベトナムに多い,いわゆる“グレーゾーン”です。

確かに,不動産事業法11条3項により,外資系企業は,転売又は賃貸目的で建物を“取得”することできません。しかし,M&Aにより日本企業が取得するのは「株式」であり,その結果として建物を所有する会社が“外資系企業”となるのであって,賃貸に供している「建物」を取得することにはなりません。 不動産事業法は,“外資系企業”が自己所有の物件を賃貸に供する事自体は規制の対象外としており,当該賃貸業務自体は違法とはならいと解され,実務上も,その運用がなされています。

Q 【M&Aによる不動産投資】の投資法との関係について教えて下さい。

日本法人は,投資法上の外国投資家(投資法3条14項)に該当しますが,ベトナム内国法人の株式を取得する形式での投資(M&A)については,「投資登録証明書(IRC)」の給付を受ける必要はありません(投資法36条2項c号)。 また,このM&Aという手法,つまりベトナム企業の株式を取得する方法による「投資」については,ベトナムに会社を設立する必要はなく(投資法22条2項),日本企業が日本から直接に行うことができます。

つまり,ベトナム当局の許可等の裁量判断を受けることなく,M&Aを実行することができるのです。 もっとも,ベトナム企業の株式を51%以上取得するに至る場合には,IRCは必要ありませんが,比較的に簡易な「登録(đăng ký)」の手続を取る必要があります(投資法26条)。

なお,当該ベトナム内国法人は,“外資”より出資を受けたために,「外資系企業」に該当することとなり,その後,当該会社が行う事業については,投資法上,外資系企業としての規制を受けることになります(投資法23条)。

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